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人生の節目で読んでほしい短歌 [河野裕子(かわの・ゆうこ)さんと家族]

人生の節目で読んでほしい短歌 (NHK出版新書 456)

人生の節目で読んでほしい短歌 (NHK出版新書 456)

  • 作者: 永田 和宏
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2015/03/06
  • メディア: 新書

この歌人一家については以前にも書いています。この著者は、乳癌で亡くなった歌人・河野裕子の夫であり、自身も歌人、そして細胞学者(1947年生まれ)。長男(永田淳)も長女(永田紅)も歌を作り、前者は歌集を主に刊行する出版社を自ら立ち上げているはずです。私はこの版元の本を手にするたびに、この家族を勝手にとても深く感じています。
タイトル通り、多数の歌人の作品を紹介、時には自分の、妻ら家族の歌もとり混ぜて。月刊『NHK短歌』の連載に大幅に加筆したもの。
※【 】は、永田和宏自身のコメントの部分です。…以下は、わたし。

《恋の時間》より。
●だしぬけにぼくが抱いても雨が降りはじめたときの顔をしている 加藤治郎
●くちづけを離せばすなはち聞こえ来ておちあひ川の夜の水音 河野裕子
…できすぎていると思われる「おちあひ川」は著者妻の実家に実存する川だそう。
●花水木の道があれよりも長くても短くても愛を告げられなかった 吉川宏志
【「愛の歌」はいくつになっても作ることができます。しかし「恋の歌」は、ある時期にしか作れないのかもしれないと私は思っています。】

《卒業》より。
●校塔に鳩多き日や卒業す 中村草田男
…親戚が「お前は腐った男だ」と面罵した、そこから名とした、のエピソード、私は初耳でした。

《結婚》より
●この子には着物を残してやれるのみ婚の準備ひとつもし得ず 河野裕子
●結婚はひと月後(のち)に迫れども連れだちて鍋や皿など買ひにも行けず 同
【河野裕子が娘の紅(こう)の結婚式に臨んだのは、亡くなる4カ月前のことでした。】

《出産》より
●産み終えて仁王のごとき妻の顔うちのめされて吾はありたり 大島史洋
【「仁王のごとき」迫力に「うちのめされ」たと言う。白髪三千丈的な誇大表現が活きています。】
●不可思議は天に二日(にじつ)のあるよりもわが体(たい)に鳴る三つの心臓 与謝野晶子
…双子を身籠っていた晶子が、自分の心臓と合わせて3つ。考えると、おなかにいる間はもう1つの心臓を体にもっていることになる。当たり前のことなのですが。私にとっては、「男児」をおなかにもつ、は、“自分と違う性別をその時だけ持っている” という事実はとても不思議に思うのです。
●吾(あ)を産みし母より汝(な)れの父よりもいのち間近にわが肉を蹴る 河野裕子
●いまわれが産み落とされし感覚に瞑(つむ)るとき子は横に置かれぬ 米川千嘉子

《子の死・親の死》より
●真新しき革のベルトが悲しかり最後に貰う許可なく貰う 永田淳
…河野裕子の父が亡くなった時、孫である永田淳が詠む。残された革のベルトをそっと貰ってきた。率直でいい歌。直球で伝わります。

《ペットロス》より
…現代の世の中、ペットを失う歌も増えているそうです。その中の著者の文章より一部。
【~私は偶然の符号に意味をつけたりはしない人間ですが、これには(説明略)ちょっと参りました。】
…さすが、科学者(京都大学名誉教授)。偶然、に感傷しないと明言しているのは。
「だからこそ、そういう方から生まれる歌は興味深い」 ということです、よね。
●よろぼえる犬に願える安楽死いつの日か子がわれに願わん 玉井清弘
…人間世界に置き換えて。切実です。

…最後に著者の作。
●母を知らぬわれに母無き五十年湖(うみ)に降る雪ふりながら消ゆ 永田和宏
…著者は、3歳で母を亡くしています。葬儀の朝の記憶が、もっとも古い記憶というだけで、母自身のおぼえはないとのこと。
●一日が過ぎれば一日減ってゆくきみとの時間 もうすぐ夏至だ 永田和宏
前にも紹介していますが。妻の命の期限を感じる日々。この1首に凝縮されていると思います。
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