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小鳥来る日 [よんでみました]

小鳥来る日 (文春文庫)

小鳥来る日 (文春文庫)

  • 作者: 平松 洋子
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2016/03/10
  • メディア: 文庫

新刊で文庫が入荷し、「あー、(既に所蔵の)単行本の方を借りよう!」と。

【それにしても、ずいぶん頻繁に猫が現れるようになったものだ。なにか理由があるのだろうかと訝しんで、すぐに思い当たることがあった。去年の夏のおわり、うちの23歳の飼い猫が大往生を遂げた。つまり老猫の死と入れ替わるようにして(略)登場したのだった。猫どうし、やっぱり申し送りがあったのだろうか。】
【あるとき、金魚すくいに目を奪われて立ち止まり、母の手を離してしまったことがある。気がついたら、母も妹もそばにいない。にわかに恐怖感が募ったが、しかし、金魚すくいの高揚と興奮がそれを上回った。その場を離れたくなくて、わたしは必死で自分の気持ちに帳尻を合わせたー動かずにここにいればいい(略)。あの奇妙な感覚はいまでも忘れない。ここにいればきっと見つけてくれる。確信めいた気分はなんだったのだろう。】

“いつ眼鏡は顔の一部になるのか” より
【Rちゃんは編集者だから、眼鏡がなくては仕事にならないのである。目玉を忘れてきたようなものだ。「うん。でもいい。今日はむりやり “眼鏡なしで平気な仕事だけをする日” にする」と。】

【日差しが入りはじめてからしばらく過ぎて、おや、と気づいた。少し離れた場所にある机の上にきれいな丸い影ができている。まるで机に彫刻した文様みたい。それは、窓辺のレース模様を光が通過してできた影なのだった…。
↑ たしか、夏の盛りを乗り越えて、ほっと息をつきながら空を仰ぐ余裕のようなものができた頃だった。おもしろいもので、樹々の枝のすきまから見える文様のありかをいったん発見すると、目の焦点をちょっと操作するだけで簡単に文様が現れるようになる。】
心にゆとりがある時は、なんでもすてきに眺められるのですね。きっと誰もが。

…毎日新聞日曜版掲載をまとめた一冊、でした。
(これを読んで、あー私は小さくてもいいから地面についた庭が欲しいんだと再確認しました。あと、できれば縁側ね。)
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