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カヨと私 [よんでみました]

カヨと私

カヨと私

  • 作者: 内澤旬子
  • 出版社/メーカー: 本の雑誌社
  • 発売日: 2022/07/06
  • メディア: 単行本

福音館書店『母の友』連載。
内澤旬子さんは何冊目だろうか。
海が見える地方に移り住んだ著者、雑草を食べてもらおうとヤギを飼い始めた

【一度でいいから海が見える場所に住んでみたかった。簡単ではなかったような気もするけれど、思ったよりもあっさりと叶ってしまった。気が付いたら他に優先すべきなにかを持ち合わせていなかったから。喜ばしいことなのか考えていても仕方がない。~】
このようなこの人の文章が好きだ。
望みがあって実行できるのならば、たとえあとで後悔してもたぶんやった方がいい、よね。

【私が付き添っていると、安心したように草を食べはじめる。】
【カヨと寄り添いあって、海を眺める。草を眺める。空も眺める。】
動物が自分に打ち解けてくれるってうれしい。本能の先に、だから。計算じゃない。
【~カヨが嬉しそうに車に乗るのを見ると、私はこのために車の運転を習得したのだと思うようになった。】

いずれそういう話になるのだろうと思っていたが、予想より早くヤギの繁殖へと話は移っていく
【ああ、このままずうっと、赤ちゃんヤギを抱っこしたまま固まって、世界の終わりまで動かなくてもいいくらい、満ち足りる。赤ちゃんは凄い。】
失礼して、我が家のネコの話。早くに避妊手術済みなので一度も出産はせず。まだ完全に叔母の庇護下にあった時のことだが、一度くらい母親にさせてあげたかった気はするのだ(けど、これも人間のエゴかな)。
【できることなら生命体として、生殖を体験させてやりたい気持ちはある。けれども~】
本人たちの幸せを考えても、すべて自然にまかせられない事情はある。

【交尾して、産んで、授乳して、また交尾して、またおなかが膨らんできて。カヨと暮らしていると、怯え悩んでいた年月が遥か彼方に飛び去って行く。】
著者自身が妊娠することはなかったが、カヨや彼らの家族を増やすかどうかと調整をする中で、自分の歩んできた人生と時に交錯する。
【一頭だけだったときのカヨは、半分人間のようになって私に依存してきていたが、交配を境にどんどんヤギの世界に戻っていき、むしろ私がヤギの世界に引きずりこまれていった。】

野生であるようで、そこに人が介入しているのだから、完全には自然ではないのだろう。
でも動物の、本能の部分は見えてくるし、見させられる。

著者の時々入るイラストが、いい。
そして久しぶりに本の装丁っていいな、と思わせてくれた《紙の本》。
「しおりひもが2本付いている本」なんて、今どきない。

…またネコと比べて悪いが、ネコが甘えてくるコトより、ヤギが個人を見分けて慣れてくるコトの方が、もっともっと嬉しい(尊い)だろうと想像する《著者がヤギの方へ寄っていったからこそ》。
生き物の声をもっと近づいて聴きたくなった。静かな世界で。