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漂うままに島に着き [よんでみました]

漂うままに島に着き

漂うままに島に着き

  • 作者: 内澤旬子
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2016/08/19
  • メディア: 単行本

順番を待っていました。あの内澤さんが、大都会から小豆島に移住。その顛末に興味津々。
付箋が大量についてしまいましたが、ピックアップして。話し口調が大半な気もするのですが、言葉のチョイスが素晴らしい。さりげない文章がうまい。おまけに絵も描ける(って、そっちが本業か。この本での肩書は『文筆家、イラストレーター』と。それそれ。

【やっぱり東京を出よう。2012年に文京区内で引っ越しをしてから一年も経たないうちに、音を上げた。まるでもって、つまらん。こんなつまらん生活のために、高額家賃を払いながら年老いていくなんて、バカバカしすぎる!!】
ではじまります(笑)。そして、2014年8月現在、小豆島の古家でひとり海を見ながら風に吹かれている…と。
先の先までビルまたビル…。この景色をずっと見て、死ぬまで見て、暮らすのかと思うとドッとゆううつに、のイラストあり。家賃が高くて、連載仕事を入れざるをえなくなってしまった…の現状。それを解決するには…!(もちろんそれだけではなく、いろいろ。この方の場合、病を経験したことは大きいと思われる)。
【東京を出て、家賃が安くて広い場所のある地方に移る(※職業上、最低限持っていなくてはならない資料がある。減らす努力をしてもそれには限界あり、だそうだ)。この閉塞感を打破するためには、それしかない。都内を細かく取材する仕事はできなくなるけれど、そもそもそういう仕事をメインにしたいわけでもない。友達にも会いにくくなるけれど、都内にいたところで忙しくて一年に一回くらいのペースでしか、誰かと会っていない。】
ふむふむ。そんなものですよね。
見ず知らずの地方で住むのなら(今は独り身)、まったく知人がいないのも…で、尊敬する装丁家夫婦が移住している地を考える。そちらで出版社を興している人も知った。なにかしらの足がかりがあることは大きい、と助言などから。
【誰かが住んだ気配が濃厚に残る家に住むことを想像すると、心の底からワクワクして楽しい気分になるのは一体どういうことなのか。】
職業的にでしょうか、この人には古い家に住む素質があったのですね。

さて、いろいろとここでは省いていますが、長い見学と吟味を重ねた上、2014年6月に引っ越します。暮らし始めて気づいたこと、利点、そうでないところを後半半分は書いているので、考えている人には参考になることでしょう。
【荷物がまったく片付いてなくても、すっきりしている。このすっきり感、何年ぶりだろうか。これ、まさにこれが欲しかったのよ。】
広い。家賃が4万とかなのに。一方、荷物整理は予想以上に進まなかったそう。整理しなくても広いのだから切羽詰まらないそうな。納得。

【その後イヤというほど思い知らされるのであるが、島の暮らしでは、季節と干潮時刻が行動の最優先となる。心身や仕事の都合は、二の次三の次。収穫のベストタイミングを逃すと(※庭の梅でさえ)、実が傷んだり、熟しすぎたり、腐ったり、虫が付いたり、固くなったりと、悲しくもったいないことになる。食べ物を見殺し(?)にするほど嫌なことはない。】

【~セミダブルベッドを買った。死ぬまでずっと布団で寝続けるのかと思ったら、猛然となんとかしたくなってしまったのだ。今後、自分の収入や生活水準があがることはない。年齢的にも(※1967年生まれ)、仕事のキャリアとしても。~てことは、今ちょっと無理して買うしかないのではないか。】

【部屋の窓からスカッと素敵な青い海を見渡すことができる。山も近い。日当たりも風通しも良い。静か。しかも十分広くて、本を床に置いても圧迫感がない。】
とはいえ、いいことばかりではない。一年住んでわかってきたことがまとめてある。興味のある方は直接本書へどうぞ♪
~自然があるということは湿気もある。スーツなどはクリーニングに出さないとあっという間に…。服の虫とは別に、いわゆる昆虫も都会では考えられないくらいいるし、入ってくる。
【家にはカヨ(飼い始めたヤギの名)になのか私になのか、判然としないものも含め、さまざまな野菜および野菜くずが寄せられるようになった。】
【~お向かいさんは「僕らは時計じゃなくて、フェリーで時間みとるんですよ」とニコニコ笑う。】

【乳癌キャリアとして今まで黙っていたけれど、この際思い切って告白すると、実は検査に行かなくなって久しい。~もういいだろうと思ったのだ。いいというのは、快癒しているという意味ではなくて、再発するならしろ、ということである。細かくは割愛するが、今後ちまちまとできるであろう癌を早期発見して取り除くという作業を、もうしたくない。できたらできたで、別の対応をしながら、癌で死ぬ方策を探そうと思ったのだ。だからこそ、東京をさっくり離れたとも言える。】
ははーん。真意はここにあるのだと思った。守らなければならない家族はない、人生どう生きようが、一個人の自由
【住んで2年近く経った今でも、高松港から草壁行きの高速艇に乗る時、わからなくなる。一体自分は今島に行くのか帰るのか。一晩寝たらすべて夢と消え失せてしまうような。】
今も、どこかで迷いがないわけではないのでは。すべての人が、縁のないところへの移住はこう思い続けるものかもしれない。→だから『漂うままに島に着き』のタイトルなのだよね。

実は、この後、内澤さんはこの場所を離れた。セキュリティ的なことらしい。でも、小豆島内だ。小豆島の中で、仕事場と作業場(※私は読んでいないが家畜飼いの著書もある)と住居を、それぞれ別にしたそうだ。うん、それも家賃がどこも安価ならできますね。ベストかも!

【本書が人生の岐路に立っているのに動くに動けない人の背中を、こっそりやさしく押すことを、願ってやみません。 2016年水無月29日】
嗚呼、また早く続編が読みたい。いずれ、お願いします。
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