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あの胸が岬のように遠かった&ドラマ化 [河野裕子(かわの・ゆうこ)さんと家族]

あの胸が岬のように遠かった

あの胸が岬のように遠かった

  • 作者: 永田 和宏
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2022/03/24
  • メディア: 単行本

再現ドラマは先日放映されたが、未読だった私はまず原作を迷いなく先に読んでから~。

青春時代、河野さんは永田さんとN氏の間で揺れ動いた時期があった。それが主題でもあったのだろうが、原作はまずは永田さん自身の生まれた環境から詳しくあり、自叙伝のようなはじまりだった。
【河野にとって、火傷の痕を私に言うのに大きな勇気が要ったように、私にも河野にいつか告げなければならないことがあった。~母が早くに亡くなったこと、いまの母が産みの母親ではないこと。これは河野の火傷以上に、誰にも言ったことのない私の心の傷であり、秘密であった。】
お互いのこの打ち明けによって、二人の距離は決定的に近くなった。

河野さんの日記と、永田さんの日記や手紙から、それぞれがその時どう感じていたかが明かされていく。当時、N氏の存在はわかっていたのであるが(その動揺を悟られる河野さんも私は正直でスキ)、新たに知る事実もあった《N青年の歌が120首ほど抜き書きされていたそうだから、心中穏やかではなかったろう》。
その他すべてが赤裸々に綴られていると言っていい。

原作を読み終えてのTV視聴は、1つ1つが手にとるようにわかった。この順で、よかった☆時々、永田さん本人の実写を挟みながら、柄本佑さんが演じた。
結婚の挨拶を先方にしたあとの、永田さんの睡眠薬による自殺未遂(河野さんには生前知らされず)、そして最初に授かった子があったことまで忠実に映像化していたのには正直驚いた。
【私は後年、いろいろな講演の場で、「自分のいま居る場だけを世界と思わない」とか「人生の風通しの良さ」といったことに触れることが多いが、人間は追い詰められると、一点だけをひたすら見つめ続け、視線をゆったりと遊ばせるという余裕を失ってしまう。~ちょっとドアを開きさえすれば、すぐ横にはまったく別の大きな世界が開けていることに気がつかない。~】

息子さんの手による母親・河野さんの評伝で、細かいこのご家族のいろいろは既に知ってはいたが、夫・永田さんが自分の人生と共に、河野さんの青春を辿ったことは、ご自身の整理としても意味があったのだと想像した。
お二人とも膨大な歌を作ってきた。その背景が浮かぶことは、今後、読者もより深く感じ入ることができるのだ。