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極北へ [よんでみました]

極北へ

極北へ

  • 作者: 石川 直樹
  • 出版社/メーカー: 毎日新聞出版
  • 発売日: 2018/03/23
  • メディア: 単行本

石川直樹さんは、1977年生まれの写真家。冒険家といってもいいだろう。東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了。人類学、民俗学などの領域に関心を持ち、辺境から都市まであらゆる場所を旅しながら作品を発表。土門拳賞、開高健ノンフィクション賞などを受賞。

ひと月前まで、知らない人でした。ラジオでのお話ぶりを耳にし、一気に惹かれました。まずは著作を読んでみようと(写真集と、いわゆる文章での出版物は、意識して分けて世に出しているそうです・写真を展示した際もあえて説明コメントを入れない主義・先入観による想像力をせばめない配慮でもあるよう)。
そして、これは!と東京での写真展にも足を運んだ私でありました~《後日に☆》

すてきな一冊です。この本のよさは、kindleではなかなか伝わらないでしょう。装丁も、文字の間隔も、内容をかもし出しています。

高校生、17歳になったばかりの夏、はじめての海外旅でインドへ。
【自分が進むべき活路を学校生活に見いだせなくなっていた。~世界中を旅して写真を撮り、文章を書いて生きていくためにはどうしたらいいか、そんなことばかりを考えていた。】
【時折、遠くの岸辺に動物たちの姿を見つけると、風景はある別の広がりをもって、自分自身とこの世界とのあいだに密接な関係を築いてくれる。小さな畏れや大地そのものへ向けられた意識は、いつしか自然への畏敬の念へと変化する。】

カヌーイスト野田知佑さん、言わずと知れた植村直己さん、星野道夫さん(ふたりとも43歳でこの世を去る・その年齢に著者はかかってきている)、やはり後で命を落とす冒険家河野兵市さんなどとの出会い(&読書)が彼を導いていく。

雪解けの時期に、氷が割れる日を予想する賭けが行われたり、盛大なお祭りがあるのは、春の到来を待っている人々の気持ちの表れだという。長く続く漆黒の闇があるからこそ、そのありがたみを心から感じる…。ずしんとくる言葉だ。

【人はその眼でとらえた光景を心に一つずつ刻んでいく生き物なのだ。老境にさしかかったとき、温かい日差しを浴びながら、いつかこの風景を思い出せればいいと思う。】
グリーンランドのイヌイットと日本人は、両者とも外見の親和性が高いそうだ。それぞれとも100%グリーンランド語あるいは日本語で話しかけられるという。

【生命を殺めて生きる糧を得るという行為を一般の家庭では行わない日本人の人々は、食べ物に対して畏敬の念が希薄になっている。自然と共に生きるために必要な価値観は、苦労して獲物を捕って解体し料理する、という一連の過程を知らないと身につかないだろう。】
【体全体を使って生きている人たちに出会えることが北極圏の魅力なのだ。ここでは五感を開き、積極的に生きようと思わないと生きていけない。】

【事前に何をするか決めれば決めるほど、それに縛られて出会いが少なくなってしまう。ぼくの旅はいつも行き当たりばったりである。】
特別な地域への旅ですからもちろんある程度の整った準備はするでしょうが、基本はあまり決めすぎないこと…なのだろう。稲垣さん、にも共通するかな~。

【一人でデナリに登れたこと、そして安全な場所に帰ってこられたこと、その安堵感が何よりも幸せだった。腹も減ったし、体の全部を使い果たしてもう動けないが、ぼくは満たされていた。わずか二週間の登攀が、ここまでの充足感を与えてくれる。だから登山はやめられないのだ。】

田中陽希さんが本能で動く野生児なら、同じ登るのでも頭脳派で文章も書けるのが石川直樹さんか。違う魅力。
この若いおふたり、今の私が大きく惹かれる人たちです。
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