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用事のない旅 [森まゆみさん]

用事のない旅 (わたしの旅ブックス)

用事のない旅 (わたしの旅ブックス)

  • 作者: 森 まゆみ
  • 出版社/メーカー: 産業編集センター
  • 発売日: 2019/01/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

《カテゴリーに「森まゆみさん」作りました》
森さんは、やっぱりステキです。
【事前に観光ガイドを読むことはまずない。驚きがなくなるからだ。人のすすめる定番の見所、お店にそのまま行くほど素直じゃないあくまで自分の勘に頼り、この道の先に面白そうなものがあるぞ、構えからしてこの店はいけそうだ、と考える。それではずれたためしはない。】

【私は権力的な場所は苦手なので、まず、お城は行かない。エライ人がゼイタクしたあとなんて見たくもない。】
あー、わかる。とっても。私自身も、そういう意味では十分ひねくれている。なんでもたいてい人気のない方にカタを持ちたくなる。
【人間はどうして著名作家のものや、国宝や重文といった権威づけにこだわるのだろう。私は人が誉めるベストセラーや賞をとった小説など、天邪鬼で読みたくなくなる方である。~むしろ反発してしまう。どうもいけない。これも反権力主義というスノビズムなのだろう。】

【観光のために、目玉施設をつくったり、立派な宿泊施設をととのえたりすることはない。交通網を整えたり、標識を整備することだって二の次である。できるだけ管理されない、自由で親切で楽しい住民を育てること。】
最近は、大阪(そして人々)に惹かれている森さん。…2020東京オリンピックが決まったことで、失われていく古き良き建物等に思いをよせ、運動もしている。新しく美しくなることばかりがもてはやされてはいけない。壊してしまえば、それは二度と復活しないのだ。
新国立競技場を作るために、神宮外苑の樹木は1500本以上切られたらしい…。)

【(宿は)素朴で静かで放っといてくれること。余分な装飾やおためごかしのサーヴィスがないこと。それが一番なのである。(略)こういう女一人の旅は少し前まで、いやがられたものだが、最近は「お一人様」という言葉とともに認知されたらしい。】
【間のびしにいくのである。東京におけるもろもろのこと、ひっきりなしの電話、ファックス、メール、高速道路、高層ビル、うるさいアナウンス、車の音、そういうものから逃れたい。別にゼイタクな宿でなくてよい。静かで聞こえるのは鳥や虫の声、渓流の音、木々を渡る風の音。建物はコンクリのビルでなく木造、欲しいのは土地の言葉と土地の料理。】

1954年生まれ。
【22歳のとき、イタリアに行って以来、20年間パスポートを持たず、海外へは行かなかった。そんなお金もヒマもなかった。43歳になって、再び10年パスポートをとった。旅は四十雀(しじゅうから)。以来、40回以上、海外に出かけた。】
ほとんどお仕事では、と思う。森さん、衣類は貰ったものばかり、と以前にあった。価値観はそこにない。もっと大切なことがある
女一人旅ならドイツ鉄道旅行。たいへん町がきれいだ。治安もいい。片言でも英語が通じる。親切な人が多い。そしてバスや列車は時間どおりに来る。これはアジアでは考えられないことだ。(略)】

【(子規の敏感な耳は)脊椎カリエスの病身ゆえ身動きできず、視覚が限られるために、こんなに聴覚が鋭くなったのだと私は思った。】
【書くこと、句作は好きだったが、学校や試験は大嫌い。みごとに不登校児になって、いまの東大を中退。というか早くに喀血した子規は、自分の余命を悟り、学校なんか行ってる場合じゃない、と飛び出したのだろう。しかし三十代半ばで亡くなるまで、俳句と和歌の革新という二大事業をやりとげた。】

イタリア文学者・須賀敦子さんのことも。
【~どこかに関西のお嬢さんの匂いがあった。怖いもの知らずで会話のはしばしに諧謔味がある。】
信濃追分を愛した叙情詩人、立原道造のことも。『夢みたものは~(詩の全紹介)』享年24歳だものな…。

あとがきが、またよい。
【生きることはつらい。毎日、原稿をかいたり、人の前でしゃべったり、それでどうにか世渡りをしている。世の中はもめ事だらけだ。地球もあとどのくらいもつのだろう。子どもは思い通りには育たない。(略)ある百姓のおじさんはいった。「失敗のない人生は失敗でごじゃります」 その時、霧が晴れるような気持ちになった。】
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