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光の領分 [太宰治と家族たち]

光の領分 (講談社文芸文庫)

光の領分 (講談社文芸文庫)

  • 作者: 津島 佑子
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1993/09/02
  • メディア: 文庫

『夫との別居に始まり、離婚に至る若い女と稚い娘の一年間。夫のいない若い女親のゆれ動き、融け出すような不安を “短篇連作” で。第1回野間文芸新人賞を受賞。』
どこまで津島さんの実生活が描かれているかは定かではないが、実兄の投影からか、娘を通わせる保育園に「普通児ではない」子が登場したり、「私は父親とほぼ入れ替わりに、この世に生れた子どもだった」の一文もあった。

巻末の、柳沢孝子氏解説より。
《~自分がひとりの手で育てている子供たちに対しても、もちろん愛情はそそぐが、必ずしも常に母親らしく振る舞おうとしているわけではない。彼女にかかわる男たちもまた夫なり父親なりの役割を引き受ける気持ち自体を持っていない。家族であって家族でないようなあやふやな均衡の上に、津島佑子の描く家庭は成り立っている。家庭崩壊という以前に、もともと家庭などあるのか解らないような所から、彼女の家庭と家族の物語は始まるのだ。》
《~父太宰治の自殺は、佑子が1歳の時であり、ダウン症だった兄正樹も、彼女が13歳になる直前に死亡している。津島佑子は、父親を知らない家庭に育ち、彼女自身も離婚歴を持ち、夫のいない家庭で二人の子供を育て、しかも息子を9歳で失っているのである。
~確かに人は、自分の生い立ちを完全に切り離して生きることなどできないのかもしれない。しかも目の前に父親の書いた作品を残されてしまった娘の心境は、そう単純なものではなかろうと思う。》

津島は38歳の時、長男大夢を失い、子供を亡くした母親の苦悩を縦軸に持つ小説を書いた(「夜の光に追われて」)。近いうち、今度はそちらへ。
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