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路上のポルトレー憶いだす人びと [森まゆみさん]

路上のポルトレ

路上のポルトレ

  • 作者: 森まゆみ
  • 出版社/メーカー: 羽鳥書店
  • 発売日: 2020/12/04
  • メディア: 単行本

地域雑誌『谷中・根津・千駄木』編集人から出発した著者が、出会った人びとを回想するエッセイ。作家、思想家、詩人、そして市井にいきる人…(帯より)。
登場する98%の方はもうこの世にいない。

【長年、町の雑誌を作ってよかったことは、死ぬのがそう怖くなくなったことである。それまで人の死に遭うことが少なかったが、土地の古い方たちに話を聞くようになって、死はうんと身近になった。】
【~ともあれ、それを自分だけのものにするのは惜しい。~この世で見たこと、感じたこと、会った人のことを次の世代に手渡したい。文化とは記憶の継承~(略)。】
ほんと、この本にあるエピソードをしまっておくのはもったいない。こうして読まれていかなければ♪

中村哲さんと。
【わたしが「なぜ危険なアフガン国境に行くんですか」と聞くと、中村さんは「ほかに誰も行かないから」と答えた。彼をカリスマ化することなく、信念を曲げない生き方を、細く長く受け継いでいきたい。】
岸田衿子さん、矢川澄子さん(翻訳たくさん・私が好きなのはこれ)もあった。聞き伝えの中には、「五月の風をゼリーにして持ってきてくれ」という病床の立原道造のエピソードも。

森さんは30歳で仲間と創刊し、自らの足で雑誌を各所に置いてもらった。しばらくするとシングルで3人の子どもを育てるようになる。この本を読むと、ずっと妻であったなら会話することはなかっただろう(取材外の飲む席に行けなかったよね)出会いがたくさん詰め込まれている、と私は思った。ひとりだったことで専念できた&生活のために文章を書き続けた→それがすべて今の森さんとなっているのだとつくづく。

そうそうたる文化人ばかりの中、私が一番心に残ったのは「解剖坂のKさん」。市井の人。なぜだろう。(※「解剖坂」は某医大の解剖学教室の真裏なため)
有名でない、いわゆる業績などない普通の人々の中にももちろん、背筋のまっすぐのびた人はそこここに居るのである。