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絲的ココロエ 「気の持ちよう」では治せない [よんでみました]

絲的ココロエ―――「気の持ちよう」では治せない

絲的ココロエ―――「気の持ちよう」では治せない

  • 作者: 絲山 秋子
  • 出版社/メーカー: 日本評論社
  • 発売日: 2019/03/05
  • メディア: 単行本

絲山秋子さん、ご自身の双極性障害(躁うつ病)のことを一冊にまとめられました。『こころの科学』連載を加筆・修正に+α。
これも読んでよかった。私はいろいろと知らなすぎた、と。
ブルーになったり、滅入ってやる気が起きない時…誰でも気分の乗らない時はあります。でもサブタイトルにあるように「気の持ちようでは治せない」ということなのです。
私が今まで思っていた「鬱」は「鬱」ではないと知りました。

【医師が「大事なことは治ってから決めてください」というのは本当のことで、病気のときに決断したことは健康なときとは違う、その人らしくない選択となりやすい。そして回復してから後悔することが多いのである。~本人も家族も同僚も、決断を先延ばししていい。そう思うことでかなり楽になる。】
【躁の場合は、疲れを感じにくくなる。また普段の趣味とまったく異なる車などの高額なものが欲しくなったり、とにかく買い物がしたくなる衝動に気をつけている。】→乱売行動に走りやすい。

【前兆や異変を感じたら早めに休みをとって、とにかく眠る。~人と会う用事をキャンセルして安静にすることで再発を防いだり、軽い経過で済ませるようになってきた。】
躁状態のときなどは、本人は消耗しているのに、とても元気に見えてしまうのである。病気なので休まなければならない、といってもなかなか理解してもらえない。「元気そうでよかった」と言われたときの落胆は激しく、それが怒りに結びついて人間関係を壊したこともある。】

医師との相性が悪く…。
【医師からの「まあそう言わず」というアドバイスを私は突き放されたように受けとめてしまい、その夜自殺企図を行った(とにかく迷いがなく行動が早いという特徴・それだけに確実性もあり危険だった:1999年のこと)。意識が戻ってからひどく叱られたが、それについては私は他人事のように、冷めた気持ちで聞き流していた。~まったく親の気持ちなど考えられなかった。】

【急なタイミングで根本からやり替える、ということができないのである。】
【朝起きてから着替えるのが面倒で、ずっと寝間着で過ごしたいと思う。~何を着ていいかもわからないし、どれも似合わない気がしてくる。化粧をするためには大決心しないと腰が上がらない。どこへ行けばいいのかわからなくなる。】
【些細なことだが、トイレの電気を消し忘れただけで自己嫌悪になったり、生ゴミを出し忘れて絶望したりする。】
うつとは異なり、躁についての情報は不足している。~うつよりも、当事者が詳細を語りたがらないこともある。私にもそういう部分がある。】
「音楽とお風呂は大事」だそうだ(精神科医)。著者は「踊る」そう。

【今の私は、誰がどう見てもおばちゃんである。~このジャンルはプレッシャーが少ない。多少の男っぽさや雑な性格も、強さと両面で見ることができる。~おばちゃんは完璧を目指す必要がない。さらに自分に対しても、他人に対しても受容できることが増えてくる。これも新たに得た自由だと思う。】
そうあらためて言われると「おばちゃんバンザイ」だ。

著者は1966年生まれ。31歳で双極性障害を発症。親戚にそれがあったそうだが、尊敬すべき存在だったという。その後、営業職勤務を離れてから(2001年退職)、小説の道へ。2006年、芥川賞受賞。
《発達障害を専門としている主治医からはASD(自閉症スペクトラム)の特徴を強くもっているという認識でほぼ間違いない言われているのだそう。このことにも触れています。》
2016年4月からは睡眠導入剤を含め、処方薬もすべて中止となり、通院は続けている

【小さな不調や気分の波はあるが、なんとか凌いでいくことを覚えた。】
躁で小説は書けないとのこと。
私は絲山さんの小説の大ファンなので、そのような症状とつきあいながら、生涯憧れる落ち着きある文章で著してくれていることをすごいと思うばかりです。

まだまだ書きとめたいことはあるのですが、これはそばに置いて時々読み返すべき本だな…と。
「人の気持ちになる」…ということがいかに大切か。
本業は小説家ですが、一般にもわかりやすく刊行してもらえたことは大きな意義があると思います。