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スローカーブを、もう一球 [よんでみました]

スローカーブを、もう一球 (角川文庫 (5962))

スローカーブを、もう一球 (角川文庫 (5962))

  • 作者: 山際 淳司
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 1985/02
  • メディア: 文庫

第8回ノンフィクション賞受賞。
とある新聞書評で、私の永遠の師・森まゆみさんが、山際淳司さんのこのノンフィクション短編を絶賛していました。いつでもここに戻る、というような感じで。
図書館本はもうボロボロでしたが、読みました。一瞬で、吸い込まれました。超一品です。

「野球」を知らない人、興味がない人にはもしかすると伝わるのが難しい作品かもしれません。これを読み、私は次のセンバツから見方が変わると思いました(地方大会も含め・プロ野球さえも)。高校野球がとてつもなく好きだったことは、故・阿久悠氏が有名ですが、その気持ちに少しは近づけたかと。

表題作より、私は冒頭の「八月のカクテル光線」に泣けました。秀逸。手にとるように、その甲子園での一戦が浮かぶのです。1979年8月16日の「星稜×簑島」戦ですね。おそらく私は、ナマで見ていました(その後も部分的には何度もリプレイされたであろう大試合)。だから余計に気持ちに添えられるのかもしれません。
私は下手くそながら「朗読」を習った時期がありますが、今、声を出して読むならば、この作品。そう思わせます。

【簑島のナインは、ひょっとしてこのゲームが延長戦にでももつれこむか、あるいは試合の進行が長びいてナイターになるのを楽しみにしていた。(略)簑島のナインにとって、甲子園のナイターだけが初体験だった。(略)カクテル光線が八月の空に輝き始める。ナイターである。《きれいやな》 緊迫した試合とは別に、そう考えていたのはナイターを期待していた簑島ナインばかりでない。】

どのスポーツもそうなのでしょうけれど、「試合」そのものだけではない、そこにはかけひきや、見ている方には想像できない単純だったり複雑だったりの、心理状況がある。ましてや、一生に一度の、敗けたら終わりの高校野球。すべての試合にドラマがあるはず。…また、審判の機微にまで触れているところが山際さんなのかも。あらためて、早くに亡くなられたのが惜しい。

野球ネタ以外も入っている。
「たった一人のオリンピック」も異色。表題の「スローカーブを、もう一球」も、少し引いたものの見方をする人物(心理)にスポットをあてている(江川的な…ネ)。
「江夏の21球」は私はそれほど。同じ1979年の日本シリーズ「近鉄バッファローズ×広島カープ」の第7戦を描いたものだが、こちらをナマ観戦した記憶はないからか。
「背番号94」も読ませる。プロに入って成功するのはわずかなのだとあらためて思う。

この一冊は、自分の蔵書として購入し、しばらくしたら読み直し、あらたな気持ちでまた付箋をつけましょ、という本です。めったにないよい出会いでした。
「ノンフィクション作家」って、すごいなぁ。尊敬する。文章の組み立て力にあらためて脱帽です(何を冒頭に持ってきて、どこを削ぎ落とし、際立たせるか)。
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