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夢も見ずに眠った。 [よんでみました]

夢も見ずに眠った。

夢も見ずに眠った。

  • 作者: 絲山秋子
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2019/01/26
  • メディア: 単行本

絲山さん、久しぶりでした。心地よい。現代作家で、単行本刊行をすべて追っているのは、今では(つまりはもう脱落したヒトもいる)私この人ひとりだけと思います。→《第2回衿賞

どこかで書いたと思いますが(以前設けていたHP『衿とAyu』の読書記録内かと)、芥川賞受賞の際、「私は時々鬱と共に生きている」と隠さず話されていました。そのようなこともあって2006年の受賞以来、それほど作品数は増えないのだと勝手に推測しています(多くなくてよい!と元来私は思いますし☆)。
今回は、そのご自身の経験が投影されてもいます(明るい作風なのでご心配なく)。夫婦が登場しますが、明らかに私は男性側に感情移入しました。女性側もいいのですが、ご自身も肩入れはそっちだと思います《うん、この作家は女々(おんなおんな)していないところがイイのです》。

小説なのでなるだけ触れず、帯より抜粋《以前と違い、こちらの図書館で借りると販売時の帯が標題紙手前に貼られるように》。
『夫の高之を熊谷に残し、札幌へ単身赴任を決めた沙和子。~ともに歩いた岡山…そして物語は函館、青梅…土地の「物語」に導かれたふたりの人生を描く長編。~25年の歳月、男女の信頼のかたち。』
これから読む予定の方は、ここまでで~。


【険悪な雰囲気のまま観光するよりもそれぞれが好きなものを優先した方がいい。】
【だが、かれはこういった旅の不便みたいなものが嫌いではなかった。】

(妻の方)
【人に負けたことがないのは自分が強いからではなく、むしろ弱さを見せまいとした結果なのだ。】

(夫:鬱の症状が~)
【新しく興味を持てそうなことを見つけるのが嬉しかった。でも、なにがどう楽しかったのか、思い出せないのだ。二度とそんな日は来ないと思うのだ。】
【ちゃんと生きている沙和子と、同じ土俵にいるふりをしようとしている。病気で働いていないからではない。もっとずっと前に俺は俺の人生から下りてしまったのだ。俺はもう、とっくにどこにもいないのだ。】

【なんとしてでも一緒にいたいという気持ちが、続かなくなってしまったのだ。きっかけがあったのかなかったのか、いつから気持ちをなくしてしまったのかもわからない。】
【「西君(※夫のこと)。日野君から話は聞いていたんだけどね。すばらしいことだよ。何も決まっていないっていうのは。~この年になるともう、殆どの人間はしがらみでがんじがらめだろ。~」】

今の私が読むのに、ちょうどよかった気が♪ 読み始めから『ああこれが絲山さんだー』という感じで一気に読みたかったのだけれど、そうも行かず(移住してから通勤読書でなくなり、早朝布団の中で…がその時間となる)。
再読のチャンスがあれば、一切の邪念、中断なしで読み切りたい。
以前の『離陸』のような壮大さはなかったが、十分染み入る作品だったと思う。
…男女でも、同性同士でも、もちろん価値観はそれぞれに異なる。が、ウマが合うというか、違いがわかったうえでうまくかみ合う加減がある。その波長と思いやり、だな。

《そうそう、絲山さんの過去の作品には車が出てくるものが多く(今回も)、運転に関してそれらの描写や気持ちが今の自分により伝わるようになったことはラッキー☆でした》