SSブログ

高峰秀子の捨てられない荷物 [よんでみました]

高峰秀子の捨てられない荷物 (文春文庫)

高峰秀子の捨てられない荷物 (文春文庫)

  • 作者: 斎藤 明美
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2003/03
  • メディア: 文庫

この本のタイトルは以前から知っていましたが、想像していた内容と全然違ってました。軽くみてました。恥ずかしながら、単に「すてられない物」の話かと思っていたのですから。
早川義夫さんが薦めているならまず間違いないだろう…で、手にとりました。

女優・高峰さんの半生を文章におこしたのは、高峰さん夫婦の養女となった斎藤明美さん。1956年生まれ。テレビ番組の構成作家を経て、週刊文春の記者となる。
【高峰秀子は、(実母を亡くした)私に命をくれた人である。ズルズルと暗い穴に落ちていく私の手首を摑んでものすごい力で引っ張り上げてくれた。】
【女優を引退した55歳以降の歳月で、彼女は思う存分、己の意志を貫き通した。好まぬもの、不要なもの、一切を排して、まるで“理想の終末”を目指すように、己を叩き、励まし、歩き続けている。私はその姿を、書きたい。】
それを完璧にまとめた一冊だろう。読ませられる一方、だからこそ一度読んだら、前半は特に読み返したくない壮絶な人生だ。幼い頃からこれほどまでに苦労を抱えて育ってきた人とはまったく知らなかった。
子役から活躍してきたが、鬼のような養母の存在があった。すさまじかった。亡くなってようやく息ができたような…。“自分”を守る術を身につけるしかなかった。教育(学校)を受けたかっただろう、でも、それどころではなかった。よって計算などは生涯苦手だったという。

取材する編集者に対し、当然自分の随筆をちょこっとでも読んでいれば知っているはずのことを尋ねてくるなどしたら、一切相手にしなかったという。まっ、当たり前のことでもある。

ある店で。
【「あそこは特別扱いみたいなことをせず、当たり前にしてくれるから好きなの。」そして、「花屋さんでも何でも、私みたいな人間は、特別にオマケしてくれるか、さもなきゃボラれるか、どっちかです。」とも。】
女優の高峰秀子だから、という理由で親切にしてくれたのではない“行動”が好きだった。

夫以外に、親友と言える存在はなかった。
【“利害”を介してしか自分に近寄ってこない人間に取り囲まれて生きてきた長い年月は、友達などという、ある意味で脳天気な存在の生息を許さない厳しさに満ちていたと思う。】
【普通、肉親から愛情を得られなくても、いや、得られなかったからこそ親友はいる、という人が多い。だが、高峰秀子という人はそちらの方向には行かず、友人がいなくても生きていけるほうに進んでいったのだ。】
【(夫:松山善三に対して)「この人なら、結婚しても、互いの収入や生活レベルの違いに、決して卑屈にならず、ふんぞり返ることもなく、私の思いを真っ直ぐに受け止め、底意なく応答してくれる。そして、この人の前でなら、私も“素直”になれる」と。】

【彼女は「気に入らない物」は何一つ身の周りに置きたくない人だ。】
すべては小さい時から、周囲を支えるため稼ぐしかなかったと自覚して生きてきた中から、自然と身についてしまった性だ。
と事情がわかった上でも、なかなか付き合うには難しい人だったのでは(同性でも)と感じた。ご主人はまさに高峰さんを包み込むぴったりな方だったのだろう。結婚当初、生活レベルは格段に違っていたが、高峰さんは彼が仕事をしやすい環境を見事に妻として作り上げていった。
…まだまだ、これも関連書を広げていってよい感じ。

《タイミングよく、木下恵介監督による彼女の主演映画2本がBSで放送された。『二十四の瞳』は早いうちに!観よう。》
nice!(0) 

nice! 0