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寵児② [太宰治と家族たち]

太宰の息子はダウン症だった、ということが津島佑子さん自作の自己年表より確認できた本。
 参①http://blog.so-net.ne.jp/eri-green/2006-10-28-1
↑に書けなかった、本来の読後感を残しておきます。
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主人公、高子(こうこ)。楽器店内のピアノ教師。一人で娘を育ててきた30なかばの女性の設定。
小説ではあるが、完全に津島佑子さん自身の「私小説」である。
その証拠に「兄」のこともはしばしに出てくる。

①兄は~10以上の数を勘定できないまま12歳で死んだ。(←実際の年齢とは異なる。)
それから26年経つ。今度の春には中学生になろうとしている夏野子(かやこ)の姿を見るよりも、兄の死んでからの年数を数える方が、高子に自分の年齢を感じさせる。

②警察から連絡が入り、父は死体になって母のもとに戻ってきた。父は海水浴に行き~若い女も~。
その墓に兄も入った。母も入った。

③幼かった頃、施設に入れられていた兄を慕い続けていた自分。

④ピアノの音に包みこまれながら、高子は、兄が施設から戻ってきた日のことを思い出していた。兄は10歳だった。集団生活の習慣がすっかり身についていて、~段取りが少しでも狂うことを許さなかった。
~高子は兄が戻ってきてからの毎日に心弾ませていた。自分の喜びは兄のいないところにはないのだ、と信じきっていた。
自分の好きな人のために不快を我慢することに、兄は最も深い喜びを味わっていた。
なぜなのだろう。兄には知恵はなかったが、愛情という叡智に包まれていた。
夏野子が1歳になった頃、すでに10歳の兄よりも自分の身を守る知恵を持ち合わせているのを知って、落胆したことがあった。自分の喜びのためなら平然と人を見捨ててしまうこともある大人の雛形でしかなかった。
日一日と知恵づく夏野子を、高子は素直に喜べなかった。

~二人で迷子にもなった。そんな時は、兄が首から下げていた迷子札が役に立った。
-やがて、兄は風邪をこじらせ、肺炎になり、死んだ。今の夏野子と同じ年齢だった。

⑤~ダウン症の兄から、生と死の意味を教わったからなのだろうか。

⑥父の他の女性との愛情、そして障害を持って生まれた兄、この二つの事柄を、高子は不幸と感じたことはなかった。
眼をつむり体を丸めると、子どもの頃の自分の姿が、眼の中の遠くに漂っているのが見えた。~兄が死んだのは、高子が小学校3年生の時だった。
~コウコ! と高子の名前を呼ぶ声だけは、舌をもつれさせないで、はっきり発音できるのだった。けれど、兄は新しく通いはじめた都内の特殊学級になじむことができないまま、呆気なく死んでしまった。

⑦兄が特殊な子どもだと、高子が気づく前に、兄は死んでしまった。それがよかったのかどうか、高子自身には分からない。姉は、兄のいたことを、学校で、男友だちとの付き合いで隠し続けていた。
しかし、高子には、兄が自分にとって恥の領分であったことは一度もなかった。兄のいた世界は童話のように、自由で静かな世界だった。

⑧(娘・夏野子にはなすシーン)
おばさん(佑子の姉)とわたしの間にいたおじさんのこと。
わたしはとても、そのおじさんが好きだったのよ。そのおじさんが死んだのは、ずっと昔の話だわ。でも、ほかのことはともかく、おじさんのことだけは忘れたくないのよ。どうしてなんだろう。
そしてあなたにも憶えておいて欲しいのよ。あなたのおじさんなんだもの。
…ほかの人がどう言おうと、わたしが一番楽しかったのはおじさんといた時だったから。

少なくとも、この8カ所でダウン症の兄について語っている。あくまでも「小説」だが、これは実際に身近にいたからこその文章だろう、と。

津島さん、23歳で結婚、25で長女、29で夫との間でない長男を産んでいる。じき、離婚。
そして、38歳の時、9歳でこの男の子を呼吸発作のため自宅浴室で亡くす。男子を若くして失う家系か。
39でカトリック洗礼。

1992年(平成4)45歳。パリからの帰国途中で(「火の山」はパリで生まれた作)アメリカ叔父を訪問する(ドラマの中のヒロインの弟のところへ)。
93年46歳、この年より詩人の藤井貞和と生活を共にする、と自身年表にあった。
包み隠さない人。

この人の母(太宰の妻)は、太宰について書いた本の中で残念ながら息子のことは少しも書いていない。
http://blog.so-net.ne.jp/eri-green/2006-10-18
どうなのか。母親の人生において、長く生きなかったにせよダウン症の子どもがいたことは大きなことではなかったのか。

次女はこれだけ兄の影響を自由に書いている。
私は、太宰の人生をけして肯定はしないが、でも女性まみれ?の人生だったにせよ、息子を投影した作品を残して欲しかったと思う。
もしかしてそういうのがありますか? ご存知の方がいたらおしえてください。
(もう少し作品研究? を続けてもよいのかもしれない。) 
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