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猫を棄てる [よんでみました]

猫を棄てる 父親について語るとき (文春e-book)

猫を棄てる 父親について語るとき (文春e-book)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2020/04/23
  • メディア: Kindle版

村上春樹氏が父親について書く。
あまのじゃく体質の私は、流行作家には近づかない。が、学生当時、薦められて『ノルウェイの森』は読んだ。読んでいる間はその世界にすっぽりいた。現実の周囲のことは関係ないわーという不思議な心持ちだった。稀有な読書経験だったことは間違いない。

さて。それ以来です。お父上のことを書いたというので、それは珍しいと興味を持ち。
【~人の頭が良いか悪いかというのは、さして大事な問題ではないからだろう。そこでは頭の良さよりはむしろ、心の自由な動き、勘の鋭さのようなものの方が重用される。】
【~当時の僕には、机にしがみついて与えられた課題をこなし、試験で少しでも良い成績をとることよりは、好きな本をたくさん読み、好きな音楽をたくさん聴き、~あるいはガール・フレンドとデートしていたりする方が、より大事な意味を持つことがらに思えたのだ。もちろんそれで正しかったんだと、今になってみれば確信をもって断言できるわけだが。】
お父さまは成績優秀な方だった。息子にもそれを望んだ。戦争を体験。20年以上も顔を合わせない絶縁状態だったという。90歳をすぎ、亡くなる前に語らうことが出来た。

私の両親は昭和2ケタ生まれ。戦地に自ら行くことはなかった(父方の祖父は戦病死である)。私の少し先輩の親世代になると、その数年の違いで戦争体験があったりする。
戦争によって、人生は大きく翻弄された。著者のお父さまのその体験は、すべて明らかではない。我が子に話せない、話したくないこともあった。
それも含めて、書いておかねば…と思ったということである。

「猫を棄てる」、いいタイトルである。ネコに関して、父親がらみで2つの思い出がある。それも事実か定かでないことがある。子どもの記憶ってそんなものだ。大人の事情は隠されるし。
…『子ども時代の想像力』、それって小説家にはとても大切なものではないか。そう思えた。