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あなたと短歌 [河野裕子(かわの・ゆうこ)さんと家族]

あなたと短歌

あなたと短歌

  • 作者: 永田和宏
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2018/01/04
  • メディア: 単行本

よい本だった。説明するまでもない永田和宏氏と、モデルであり国連でも活躍する知花くららさんとの、短歌にまつわる対談など。
歌の初心者(つまり私)にはわかりやすかった。

知花は、昨年いきなり角川短歌賞佳作受賞の経歴あり。
【知花:~前に先生がおっしゃっていたドーナツの穴ですね。本当に言いたいことは言わない。】
【永田:そうです。歌は自分の気持ちを全部詰め込んで、私はこう思ったのだから、あなたもそう思ってください、と読者に押し付けるのではなくて、どう解釈されるかは読者に任せてそっと渡す。これは初心者に限らず本当に大事なことで、僕が一番強調したいことですね。】
一番言いたいことは言わない。これをとにかく何度も述べていました。

【永田:せっかくだからもうひとつ大切なことを言っておこう。歌の言葉はなるべく漢語じゃなくて、大和(やまと)言葉を使ってほしい。たとえば「書籍」ではなくて「本」にするとかね。】
音読みより、訓読み好きの私には合ってますね(笑)。

駅、旅、雨などのお題による一般からの歌などで、ふたり語り合います。
私が秀作と思うものを。
【鳥栖駅に列車乗り継ぐ十分間夫と義兄と掻き込むうどん】
【病床で時刻表繰り旅程練るどこへ行けてもどこにも行かず】
【君の背に午後の光が跳ね返り汗ばむシャツに昨夜の彷徨】
【唇にまづ一粒の雨の来てやがて万朶の花を打ちゆく】
 ※「万朶:ばんだ」(花のついた)多くの枝
【ため息をつくたび窓につく汚れ拭き取る妻はころころ笑ふ】
【ガリガリ君清少納言に齧らせて『あてなるもの』と言わせてみたい】
【点滴で逝ってしまった我が父の何であったか最後の食事】
【眠ること食べることにも体力が必要なのだと老いたる父は】
【あと五段あたりで押し戻さんとするビル風といふ冬に出会えり】
【観覧車回れよ回れ想ひ出は君には一日我には一生】栗木京子(歌人)

【知花:私が短歌を始めたきっかけが、与謝野晶子でした。~他人からどう見られようと自分が信じた道を貫く姿勢や、そんな強さと裏表にある危うさや脆さのようなものを感じる歌に出会うと、もうたまらない! 自分を剥き出しにしては行きづらい世の中で、どこか憧れもあるのかもしれません。】
ちなみに知花さんには、女性誌の編集部に「本当に出して大丈夫ですか?」と事務所に3回くらい確認された歌があります ↓
【知つているでしよきつく手首を縛つても心まで奪えぬことくらゐ】

知花さん、「歌会」に初参加。事前に参加者全員が詠草(一首)を提出します。作者は伏せられ、歌のみが番号とともに印刷されたものが当日配布されます。司会が歌を読み上げ、一首ずつ全員で歌を評しあう形で進行。参加者は入り口に置いてある番号札を取っていき、その番号の歌になったとき、最初に評す役目を担う。その後は挙手をして思い思いの評を。
私が好きな『俳句さく咲く!』(Eテレ)でも、作者は隠してみなで論議する場面はとてもおもしろい。

例えば、
【公園でスズメを眺めていたはずが泣く声のする砂を見ていた】
これをどう解釈するか。ある人は、自分の子か孫のことだと。いや、これは作者自身では、と。
私は、後者の方。寂しい心情の歌と感じました。
…というふうに、あくまで読者がさまざまに想像する、その余韻というか「幅」が歌にはなくてはいけない。はっきり読んではダメ。

永田さん、「機会詠」について。
社会の出来事や政治、あるいは身のまわりに起きた事件や、自分が目にしたさまざまな社会的出来事を素材として詠んだ歌のこと。
【僕は、機会詠はすごく大事だと思っています。たとえば大きな事件が起こったとして、それ自体は記録に残るんだけど、庶民がそれをどんな気持ちで受け止めたか、リアルな感情っていうのは歴史の書に残っていかない。それら庶民の感情の総体とでもいうものは、一般の人たちが作る短歌やポエムとかのなかにだけ、唯一、残っていくわけです。】
短歌(5・7・5・7・7)だけでなく、そういう川柳(5・7・5)もよく見かけますよね《新聞誌上に》。季節や叙情的なものでなく、そういうものから気軽に作っていってもよいかもしれません。
まずは「数を作ること」だそうです。
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