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ちづる [よんでみました]

ちづる- 娘と私の「幸せ」な人生

ちづる- 娘と私の「幸せ」な人生

  • 作者: 赤崎 久美
  • 出版社/メーカー: 新評論
  • 発売日: 2011/10/31
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

以前からずっと気になっていた本。近いうちに、鑑賞機会に恵まれそうなので今だと。
【娘の千鶴は自閉症です。~今年で21歳になりました。県立の養護学校に通っていた中学2年生のころからほとんど学校に通えなくなり、卒業したあともずっと在宅で過ごしています。
~息子の正和が、この春(2011年3月)大学を卒業しました。立教大学で映像を学んだ息子は、卒業制作として自閉症の妹を題材にしたドキュメンタリー映画「ちづる」を撮り、その映画が思いがけなく~劇場公開されることになりました。
映画の制作から劇場公開への過程で、息子の指導教官兼プロデューサーである監督に、私のブログを読んでいただく機会があり、これを本にしてみないかとすすめられました。】
まず、妹さんの生活を撮ったお兄さんがいて、それをきっかけにお母さまがお嬢さんのこと、家族のことを、肩の力を抜いて綴る。
これは、読む前の想像以上にすてきな本でした。出会えてよかった。

【息子が卒業制作で撮った映画「ちづる」はいくつかのマスメディアが取り上げてくれた。インタビューの中で息子が「映画を作る過程で自分自身の心に潜む差別に気づいてとてもショックだった」と語っているのを見て、私にもそういう瞬間が確かにあったのを思い出した。
~自分の中に差別がある。だから千鶴の障害を受け入れるのがつらいのだと気づいた時、私もやはり息子と同じように涙が止まらなかった。けれども、そのことに気づいてからは本当に気持ちが楽になった。もちろんハイパーな自閉症児を育てる大変さは何も変わらなかったが、それについてとんちんかんな感傷に浸ることはだんだんなくなっていった。
自分自身の問題であることに気づく。それが、千鶴の障害を心から受け入れるためには不可欠だった。そのことを息子が思い出させてくれた。そして、息子もやっとその境地に到達できたことがとてもうれしい。】
ここぞ、と撮影に臨んだお兄さんではない(妹さんとは2歳違い)。どちらかといえば、兄妹の交流は少なかったきょうだいだったよう。2011年末に刊行された時点で、映画制作の道でもなく、福祉関係の一般職に進まれている(これにしてもお母さまとしてはうれしかったことでしょう)。
お母さまも、息子さんも、ごく普通の家族。それが、なんとも気負っていなくてとてもよいのです。

ああ、この調子で引用していたらきりがありません。
お嬢さんは、写真で拝見する限り、とてもきれいで温和。例えばAyuの障害は、ひと目で理解してくれる方も現在では多い気がしますが、ちづるさんのように一見まったくわからないということは、苦労も大きいだろうと容易に想像できます。
時々、そういうことが理解できるようになっただけでも、私はAyuを持ったことをありがたいと思います。
この本は、いつか読みたいとリストに上げてはいましたが、ここ1年半のAyuのナゾの反抗期?&精神科への通院などを通して、またさらに私の心に響いたのだと。
ダウン症には青年期のつまづきが(Ayuは典型的かと)多くみられるとも言われており、それは鬱や自閉的な要素にとても近いと思っています。なので、こまごまとしたちづるさんのこだわり(手を煩わせたあの時期のAyuの状態はなんでもなかったと思えるほど、この赤崎家はちづるさんに合わせて、添って生活されてきました)は、痛いほどわかるのです。

また、それだけでもいろいろあるのに、交通事故でちづるさんはお父さまを亡くされました。タクシーに乗車していての、事故。息子さんが加害者に宛てた手紙、そして事情をよくわかっていないちづるさんが、お父さまの死後、自家用車内で「おとうさんの匂い」と言うところ、涙なしでは…。

後半で、ちづるさんとの生活だけでもいっぱい々だけれど、トイプードルを飼う様子が綴られています。ちづるさんは、自分の方が世話しなくてはならない存在に少しずつ成長をみせていきます。
【(電車で偶然バッグからトイプードルが顔を出している場面に遭遇!)その後、千鶴はそうっと、犬の頭をなでていた。~ほんの短いひとときではあったけれど、その様子を見ていて、きっと大丈夫と思えた。そして、この偶然を神様からのGOサインと勝手に思うことにしたのだった。】
こういう選択は、私たち親にはよくあることかと。

【息子が高校2年生のころからとても情緒不安定で~(略)、大学ではボランティアサークルにもはいっていた。その活動についてはあまり詳しく話そうとはしなかったが、障害をもつ若者たちとスポーツを楽しんだり、地域の障害児の親たちの集まりに参加したりもしていたようだった。~そんなふうに、ハンディをもつ人々に何らかの思いはあるようなのに、自閉症や自分の妹のことになると、どこか距離をおいて無関心な姿勢をずっと貫いていたから、彼から突然そんな言葉(卒業制作で自閉症をテーマにしたドキュメンタリーをつくりたいと)を聞いて驚いた。でも、心からうれしかった。やっと妹の障害と真正面から向かい合う気持ちになってくれたのだと思った。】

2011年1月に、この映画のことはA新聞「ひと」欄に掲載された。これだ、私が知ったのは!
お母さまは、息子の心にぴったりと寄り添っている記事(文章)だと感じたそう。実は記者自身の兄も自閉症をもっていた。
【(息子は)親にも友達にも(妹の存在を)言えないまま、障害者差別や父親を無残にしなせた飲酒運転への怒りや憎しみは、彼の心の中の袋小路にはいりこんで肥大化してしまっていた。池谷先生は≪大学の映画制作指導教官≫それを外へ引っ張り出し、暗くネガティブな方向に傾きすぎていた気持ちのバランスを正常に近づけてくれたのだと私は思っている。
~ずっと足踏みしてきた階段を、息子は社会に出る直前になってようやく一段上がることができた。真の意味で「ちづる」は「卒業制作」になった。】

この本は、最初から一字一句、声に出して読むのに適していると思う。文章も、とてもいい。
図書館に返却してしまうのは惜しい(笑)。
奥付は、発行後1カ月で第2刷となっている。共感する親御さんが多いのだろう。
お母さまによる、ちづるさんの子育てだけでなく、むしろ私は、このお兄さんの心情に思うところがあったのだと。

ちづるさんは、Ayuより少しお姉さん、不登校を経て、高等部を卒業し、今は横浜からお母さまの実家・福岡に移り住んでいる。
おそらく今も、作業所に通所などはされていない。
でも、十分幸せ。それでいいのだと思う。いつまでも変わらない、そのままのご家族でお元気でいて欲しいと願う。
…作品を拝見するのが待ち遠しい。
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