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父 水上勉 [無言館<戦没画学生慰霊美術館>そして親子のこと]

父 水上勉

父 水上勉

  • 作者: 窪島 誠一郎
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2012/12/26
  • メディア: 単行本

私にとっては、まず「無言館」ありき、そのあとそこを作った窪島氏(もう72歳を迎えるのだな…1941年生まれ・ちょっとびっくり)、それから知った父(作家:水上勉)と子の関係への興味、の流れである。
さんざん触れてはきたが、引用しつつ、紹介もしてみたい。

【わたしは戦時中に2歳と9日のときに父親と離別し、その後養父母のもとに実子として貰いうけられた子で、戦後30余年も経ってから父と再会したのである。すでに人気作家の頂点にあった父親と、一介の小さな画廊の経営者だったわたしの対面は、当時のマスコミに「奇跡の再会」とか「事実は小説より奇なり」などと取り上げられ、わたしが約20年間もかけて親をさがしてあるいた「物語」は、NHKの連続ドラマにまでなった。再会時、父は58歳で、子どものわたしは35歳であった。】
【日本の近代文学史上に、稀代の「私小説」作家として名をなした父親だった~(略)。】
いくつかこの再会についてはご自身の著者もあり、水上氏の方も綴っているものがあるようだが、ここでまとめて自分の生みの父の姿をまとめておこう、と刊行した本、であろう。

私は、水上氏のことはよく知らない。もちろん、水上勉という作家の名は常識的にインプットはされていた。「無言館」つながりで、数冊は読んだと思う。もう昔の作家、という印象はぬぐえないし、若い時にもうけた子&貧しかったとはいえ、正直、我が子を手離した女好きの作家…という先入観があり、私から遠ざけたのも事実である。
そして、なぜか、窪島氏はその父親にばかり、感情移入している。生みの母との再会、も確かにあったのに。それが、女としては気になったこと、でもある。
しかし、この本を読み終えると、“いい加減なことも多かった父親に自分がよく似ている…ということを否めない、最初の妻(母)との出会いと別れ、その水上氏の気持ちがよくわかってしまう”というのだから、こちらとしては何とも言えない。

が、時々出てくる、窪島氏の妻の発言が、読者の私としては、とても救いとして響く。
【「どんなにいい小説書いたって、自分の子ども一人育てられないような父親は最低よ。それにくらべたら、戦争中飲まず食わずであなたを育てたクボシマのお爺ちゃん、お婆ちゃんのほうが、ナンボかエライわ。」それが持論の妻である。】
ふだんから、どちらかといえばアンチ父親派の妻だそう。小説家としてりっぱに財を成したという点はすごい、とその才能は認めているそうだが・笑。
この奥さんが、水上氏が次に持った家族、またその次に持った家族(特に女性陣と)、そして生みの母と自然と交流してきた様子が、とてもいい。

水上氏が直木賞作家となった直後(1961年)、3人目の奥さんとの間に誕生した直子さんは、先天性の脊椎破裂症をもっていた。この方が、水上氏の次女にあたり、長女はその前の奥さん(逃げられ、子は自分の元で育てる)との子。《直子さんの存在は、その後大きく作風等に関わってくる。》
戦争中でもあり、水上氏は手離した最初の子(窪島氏)は死んだものと思っていた。実際、その場所付近を訪ねていった事実もあった。
30年以上経ち、名乗り出た息子。やはり、「息子」(男同士)だったということが、この親子に通ずるものあり、だったのだろう。道は違うが、画廊経営などそれなりに着実な仕事を見つけ歩んでいた我が子の、思いがけずに生きて…の登場は、ただただ感激だったと想像する。
息子を「凌(りょう)!」と呼んでいる。当時、自分の子につけた本当の名、である。

【益子(窪島氏の生みの母)はわたしの妻とは仲が良かったようで、何どか食事をすることがあったようだ。妻は、「いいひとよ。あのひともミズカミさんに翻弄された一人だもんね。いつも会うと、未だにリョウちゃん、リョウちゃんって、言っているわ」報告しなくともいいことを信州に電話してきて、「ことによると、あなたを本当に愛しているのは益子さんのほうかもしれない」そんなことをいった。】
益子さんは、次の結婚で息子と娘をもうけ、平凡に暮らしていた。水上氏と窪島氏の再会のニュースを知り、息子を訪ねる。当時を思い、とにかく「ごめんなさい」と謝る母。暗に父親を非難する言い訳が含まれていることにも何となく好感がもてず、子(窪島氏)の方はそっけなく応対してしまう。母親としては辛かっただろう。
どんな理由があったかわからぬが、益子さんは81歳で自死。亡くなったことは聞かされていたが、本当のことは益子さんの娘から5年後に知らされたそうだ。「ふだんからウツのこともあったし、衝動的なことだったと思う」と。遺書はなかった。
既に病床にあった父・水上氏にはその新事実は知らせなかったそうだ。
…このことは短く、最後に書いている。わざと、淡々と記している。著者の演出も感じられる(作家の息子だ)。
養父母は、もうとっくに亡くなっているのだろうけれど、それについてはほとんど書いてはいない。まぁ、タイトルが「父・水上勉」であるし。?? でも気には、なる。私は。

作家・水上勉にとっては、血を分けた息子はこの人だけ(娘は2人いる・3人すべて母親違い)。窪島氏にとっても、本当の父親はもちろんこの人だけ。
女性が好きで(顔はよく似ているとも言われたらしいが、父親は文学界でも有名な美男子だったらしい・女優とも浮名を流す)、長く妻と離れて遠くで生活するなど、自分勝手なところも今では見事に重なるそう。
…血とは、そんなものなのかも!? そして、嫌なところも似て、それでいいのかなぁ、、、。

ずいぶんと図書館予約は待った。まだまだこのあとも待っている。人の興味をそそる親子の再会なのだろう。
《孤独と思えた窪島氏には、実は妹や弟がたくさんいた(←母方にもいるので)。そのあたりの交流も書かれていて、なかなかおもしろい一冊ではあるでしょうし、私のように「?」な部分を感じる人もきっといることでしょう。》
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