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週末介護 by岸本葉子さん [我が家の介護いろいろ&認知症関連]

週末介護

週末介護

  • 作者: 岸本 葉子
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 2016/07/16
  • メディア: 単行本

期待以上によい本でした。実のお父さまが徐々に認知症となり、きょうだいで1つのマンションを拠点に、かわるがわる曜日交替で介護した記録です。その5年間、入院期間以外は自分たちで最期まで見守りました(享年90歳・お姉さんの息子さんも、男手として力を発揮しました)。
まったくの介護初心者が、探りながらもみなが出来るだけ居心地よく過ごせるよう進んでいった様子が手にとるように浮かびました。エッセイとして読むのもOK。我が父は、ここまで突入していないけれど、いずれ…と考えると参考になります。というか、人間の終焉はこう進んでいくのが常、ということでありましょう。
お母さまは70代の時に入院し、アッという間に亡くなってしまわれたということで、介護ははじめての体験だったそうです。お父さまは著者のお兄さまと同居しており、多くは語らなかったけれど、もの忘れが進んだことを子どもたちは悟ります。お兄さんの仕事場と家が遠いこと、兄と姉だけにまかせきりにはできないと、岸本さんは自分の自宅近くにお父さまの住む理想のマンションを一年かけて探し出します。介護者の部屋も確保できて、交代で出入りしやすく、便利と感じ寄りついてくれるところを!

【きょうだいで一致していたのは「きれいな老人」をめざそうということだ。~ふと父の服を見て息を呑んだ。胸の前が食べこぼしのようなしみでいっぱいだ。】
【問題を解決したのは、腕のいい床屋との出会いである。~「総合整髪」というコースがあり、洗髪から散髪、ヒゲ剃り、眉毛切りまでして、仕上げに蒸しタオルで顔を温めてくれるようだ。まるで「男のエステ」である。~前に来ていた人がそのコースのお金をレジで払っていたが、湯上りのようなさっぱりしたようすだ。同じコースを頼むと、父もたいへん気持ちいいらしく、途中から口を大きくまるく開け、完全に身を委ねきって眠っていた。】
【公園に行った日は、たとえ公園に行ったことは忘れてしまっても、表情や頬の色つやに生命力を浴びた痕跡のようなものが、一日じゅう残るのだった。】

トイレの問題、ボリュームを高くするTVのこと、ひとりで外出してしまい先方から連絡をもらったことetc…、次第々に出てきます(介護保険については、入浴で使う椅子は重宝したとあったので、我が家も業者からもらっているカタログを見直してみよう)。
【5年間の間にも体の状態、とれる姿勢、できる動きは変わっていく。それに合わせて一回一回買い替えていたら、破産していた。レンタルできるのがありがたい。】

何度も同じ会話になること。
【やがて気づいた。父にはこういう話を何回したっていいんだ、と。】
社会人で、むろんいい年をして…だが、ほかの誰にもできないけれど、「じまん話」がお父さまへは何度でもできた。「またか」という顔をされることはない(例えば「きれいだねぇ」と言ってくれる服についてなど)。そのつどはじめて聞いたような相づちを打ってくれる

固い介護体験としてではなく、お父さまのからだが少しずつ終わりにむかっていく、その日常をきょうだいを挟んで過ごした時間を閉じ込めてあり、よく綴って残してくれたなぁと。
きれいごとではない、個々の違いの難しさにも触れており、著者は『これを書いて、ようやく介護を終えることができた』と。
ソフトカヴァーで、装幀としても、全体の雰囲気がよい。さすが晶文社さん。いずれ文庫になるのでしょうが、私はこの 「単行本ならでは」 の手触りが好きです。

《最後になりましたが。著者:1961年生まれ。東京大学教養学部卒。エッセイスト。最近では俳句番組でお見かけしますね。自身のガン体験の本や老いじたくについて…もいずれ読んでみましょうか。→自分でも忘れていましたポツポツ読んでいますね。 》
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