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春にして君を離れ [アガサ・クリスティー]

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

春にして君を離れ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

  • 作者: アガサ・クリスティー
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2004/04/16
  • メディア: 文庫

いやぁ、素晴らしかった。予想を崩してくれた。
ポアロもマープルも出てこなければ、殺められる人もいない。ミステリー(推理小説)ではないとも言える。なのに、ゾクゾクとする。

主人公の夫である弁護士が、妻のある男との愛に走ろうとする長女を悟らせようとするくだりに、私はまず打たれた。p186~からの数ページはさすがの説得の弁。見事。
原文ももちろんだが、訳者の中村妙子氏によるところも大きいか。しかし、本題はこれからであった…。

3人の子を既に育て上げ、幸せな人生の中にいる主婦ジョーンは、嫁いだ次女のところへ出かけていった帰りに、汽車が動かず、何日も立ち往生となる。宿に泊まりながら散歩を繰り返す。読む本も尽き、今までの自分の過去を思い起こす。それは、家族や夫に及び…。

巻末解説では故・栗本薫さんがシビアに書いている。これは、読み手によっていろいろなとらえ方が出来る作品。限りなく恐ろしく、そして哀しい小説だと。そして「私のバイブル」でもあると。
Yesである。ハヤカワ文庫で読んだわけだが、できたら活字の大きい単行本があるならば、My本棚に置きたい一冊である。
女性向けかもしれないが、男性にも一読の価値はあると思う。

…一昨年手にした『アガサ・クリスティー完全攻略』を参考に、おすすめを少しずつ制覇している。「春にして君を離れ」は私の住む街では絶えず予約待ちで棚に並ばない状態が続いている。
今回、私は「春に~」の返却と同時に、『~完全攻略』がラッキーなことに館内蔵書していたので、そのページ(p328~)をめくった。新しい図書館の、思っていたより居心地のよい椅子に腰掛けながら。うーん、よい時間だった。そこには “つべこべ言わずにとにかく未読は許さない” とあった。まさに同感。
主人公を自業自得と思うか、夫たちの考えこそ身勝手と思うか。繰り返すが、何も大きな出来事は起きない。しかし、読者のさざ波は必ず発生する。それは意外と大きい。
すでに私の中の2016年のベストは出たのかも。
【ある意味で、私は『風と共に去りぬ』を思い出した。同じような思考を辿った方、いるかしら。どちらも読破の方、語り合えましたら☆】
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