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障害者の経済学 増補改訂版 [よんでみました]

障害者の経済学

障害者の経済学

  • 作者: 中島 隆信
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2011/09/02
  • メディア: 単行本

仕事中に手元に来て、これは読まなきゃと思わされる。
出版元は「東洋経済新報社」。これが大きい。障害者関係の本は、“福祉の枠”でおさまってしまうので、経営・経済書を読む一般人が触れる機会がほとんどない、という。
この世界でも「経済学」はしっかりあるのだ。
と、書きながら、私も「福祉的」な目で読んだしまったのだが、是非そうでない方にも手にとってもらいたい。

私がまずペラペラとめくっていて、一番気になったのが、“特別支援教育に携わっている教員の給与”についてだった。
実は、このような教師は、どの都道府県も一般教員より多い給料が支給されているのだそうだ。+特別手当がある。

これはどうしてか。“3つの仮説”が述べられている。
【①まずは、高度な技術が要求されるということ。そのための技術を取得・維持するために追加的な費用がかかる、という説。
②給与を高めに設定しないと教員のなり手がいないのではないか。いわゆる3K仕事をする覚悟が必要。排泄物の処理が抵抗なくできること、車椅子を運んだり、障害児を抱きかかえたりする体力がいる。そして、重度障害児はいつ生命の危機にさらされるかわからない。こうした心理的・体力的負担に見合う給与がいる、という説だ。
③最後は、高い給与によって教員のモラルを維持できるという考え方。支援学校での仕事は評価が見えにくいため(例えば、進学校にどれだけ合格できたかというような数での成果は難しい)、教員のやる気は自ら仕事に生きがいを見出すことができるかどうかにかかっている。しかし、こうした努力をすべての教員がするという保証はない。そこで給与を高めに設定し、他の職業と差をつけるのである。そうすれば、仕事を怠けることはないだろう。なぜなら、上司から仕事への適性を疑われ、他の職場への転勤を命じられると給与が下がってしまうからだ。】

こういうことをはっきり表に出して論じてくれる本は今までなかったと思う。
支援学校に限らず、教職につく人には、どこに配置されても常に志し高くいて欲しい、と学校という場に送り出す親はみなもちろん望んでいる。
その中でも、支援学校を担当する教員は、大きな愛がなくてはつとまらないと私は考えている。
どうして支援学校の教師を目指したのか、あらたまって今まで先生方に尋ねる機会はそれほどなかったのだが《中には正直に、「今の通常クラスの生徒をみる(荒れている生徒もいるので)自信がない(だから選んだ)」と吐露してくれた先生もいた。その先生は、よく指導してくださった。結論としては、理由がなんであれ、懸命に取り組んで教育してくださればいいので、ある》、追求!?してみたいところだ。

その他いろいろな視点から論述、経済学的に分析されている。また、はじめにきちんと「今回も視覚・聴覚障害について加筆することはできなかった」と明記してあることも好感だった。
次回は、そこまで追って欲しいものです。

増補改訂版、にまでして刊行した著者とは。
1960年生まれ。慶應義塾大学商学部教授。商学博士。
最後まで読み、あとがきのところではじめて、脳性マヒの子どもの親、という記述と出会う。
そうでしたか。と同時に、その体験的な前提があって、このようなテーマが生まれたのね、と思う。
たしかに、それでなければ気づかない視点がここかしこにあった。
でも本来は、そういう身近な存在がない学者等によって、こういう本が、福祉系出版社以外でどんどん生まれなければならないのだと。
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