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ばかもの [よんでみました]

ばかもの

ばかもの

  • 作者: 絲山 秋子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2008/09
  • メディア: 単行本

絲山さん、これはまるでポルノ小説のような始まりでした。
でも読み終えると、違いました。また一歩、上にいってます。

これから読む人は ↓ けして読まないで。



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【ネユキのメールを、差し出された一枚の清潔なハンカチのようだと思った。それを受け取って畳んでポケットに仕舞う、そんなポケットが今の俺にあるのだろうか。いつかネユキと再会して、洗ってアイロンをかけたハンカチを返せる日が来るのだろうか。】

【俺にとって片品というのは、冬の雪が多くてさびしい土地、というイメージだけれど、額子はいっぺんに花が咲く春と、短くて明るい夏が大好きなのだった。】

若い時一瞬を過ごした、ちょっと歳の離れた男女が、ずーっとあとになってまた巡り合うことになる。
女に夢中になった当時の若者は、そののちアルコール依存となり世捨て人に。
別の男と結婚したはずの年上の女は、再会の時、まるで老婆のように。
左腕を失っていた彼女は、右腕をガシガシ洗って欲しいと頼む。
そうか、右手しか使えないということは、右腕を自分で十分洗うことはできないのだ。
そんな文章にほろりときた。

タイトルの意味は、ラストに。深い。
なぜアルコール依存となっていったのか? の部分が弱いのでは、と感じたが、社会からはみ出してしまった中年に差し掛かった者たちの、若い時には備わっていなかった何かが加わって、少しずつ共に再生していく過程が見事に描かれていたと思う。
代表作となる一冊でしょう。
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